移動法相・第三問

ブログが凄くやってみたかったので、やります。話せることは法律のことくらいです。

 

移動法相で模擬相談として、こんな例が用意され、僕が解説しました(用意したのは僕ではないです)。ざっくり言うと次のようなものです。

 

第三問: 隣人の騒音への対処法 

<事例>
相談者はアパートの住人。
相談者の隣人が、毎日夜遅くまで大音量で音楽を聴いている。相談者は何度か注意したが、相手は
「夜中に大音量で音楽を聴いてはいけない」なんていう条項は契約書のどこにもない、などと言って
一向にやめてくれない。どうすればよいか。

解答として、

α.大家を介して隣人に静かにするよう頼む(債務不履行構成)

β.直接隣人に静かにするよう頼む(不法行為構成)

という2つの方針を用意して、そこから論点として

α.について

① そもそも大家は隣人に対しなんらかの対策をするよう請求し、あるいは改善されないようならば隣人との賃貸借契約の解除をすることができるか

② (①が可能なことを前提として)大家は相談者に対し、隣人の騒音を辞めさせるような作為義務を負うか、すなわち相談者は、大家が隣人の騒音対策をしないことを理由に大家に対して損害賠償請求しうるか

β.について

③ 騒音を理由に相談者に対する隣人の不法行為が成立し、相談者は隣人に対して、709条に基づき損害賠償請求できるか

④ 相談者は隣人に対し、騒音の差止請求ができるか

をあげて、順次解説する形をとりました。

 

①は賃借人の用法遵守義務を前日の模擬相談でやったので、契約条項にない「騒音を出さないこと」が用法に当たるかの議論ができれば、解決はできるかとは思いましたが、それ以降に関しては一年生どころか二年生も授業でやってない内容であり、どうなんだろうと思いながら解説を考えていました。

 

α.

①民616条の準用する594条1項において、賃借人には用法遵守義務が課せられており、その不履行は同条3項により解除原因になりうることが言えます。

そこで、契約条項に無い内容でも用法と言えるかを考える必要があります。裁判例で「(賃貸人は、)もし、賃借人に右協同生活における社会通念上他の者が受忍すべき限度を超える違反行為があった場合にはそのものに対しその速やかな停止を求めるとともに、これに応じないときは、もはや賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為に該当するものとして、賃貸借を将来に向かって解除することができるものと解する」(東京北簡裁昭43年8月26日)とあります。これは、「社会通念上他のものが受忍すべき限度を超える違反行為」(ここでは限度を超えた騒音)が用法として言えると解釈していいでしょう。「賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為」は信頼関係破壊の法理を指していると考えて良さそうです。

さて、隣人の行為は上記基準を満たしているかどうかは、事案を見る限りわかりません。そこで、相談では騒音の態様について詳しく聞くとともに、大家が何らかの対応をとったのかどうかを聞く必要がありそうです。

 

②ここでは、大家が解除権を持つことを前提に(①の検討)、相談者は大家に対してその権利の行使を請求できるか、という話でした。賃貸人は賃借人に対し、使用収益させる義務を負っているかという問題で、民法601条が手掛かりになりそうです。事実裁判例(大阪地裁平成元年4月13日)でもその義務の不履行により損害賠償請求を認めており、①が認められた上で、大家に相談しても一向に改善しないような場合には、損害賠償の余地がありそうです。

 

β.

不法行為が成立するかにつき、最高裁では、「すべての権利の行使は、その態様ないし結果において、社会観念上妥当と認めれらる範囲内でのみこれをなすことを要するのであって、権利者の行為が社会的妥当性を欠き、これによって生じた損害が、社会生活上一般的に被害者において忍容するを相当とする程度を超えたと認められるときは、その権利の行使は、社会観念上妥当な範囲を逸脱したものというべく、いわゆる権利の濫用に当たるものであって、違法性を帯び、不法行為の責任を生ぜしめるものと言わなければならない」としています。(昭和47年6月27日)

社会生活上で他人に損害を与えることは多々あり、その全てが権利侵害となるわけではありません。それが権利侵害となるには、「社会生活上一般的に被害者において忍容するを相当トスる程度を超えたと認められる」ことが必要と言えそうです。いわゆる受忍限度論というものです。根拠に民法1条3項を挙げています。

今回の事案では、先ほども言った通り、騒音の態様が明らかでないため、不法行為が成立するかどうかはなんとも言えません。ただ、隣人の騒音で損害賠償が認められた裁判例は少なからず存在するみたいです。

④差止めの可否は、あまり触れませんでした。後ろに専門家(根元先生)が控えており、下手なことが言えなかったからです。

ただ、最高裁判例でも騒音の差止めは認められている例はあり(平成6年3月24日:工場騒音)、全くありえないというわけではないです。ただ、相当厳しいと思います。

 

こんな感じで解説を終えて、それなりに納得していただけたようでした。しかし、ここからが本題です。

ただ、僕は以下の点で疑問がありました。(解説では触れなかった部分です)

(i) ④の差止めが認められないならば、相談者の悩みが根本的に解決していないのではないか。すなわち、相談者の要求は「隣人の騒音をなくしてほしい」だったのに対し、②と③は賠償金がもらえるだけで、騒音がどうにもなっていない。

(ii) ③の論拠となる受忍限度論は現在は通説ではない。

 

特に(ii)についてはさも通説のように語ってしまったので後悔が残りますが、あまり気にしていません。どうせ結論は変わらないので。

ただ、(i)は結構厄介な問題です。考えられる手段としては、

a.大家の「使用収益させる義務」に対して履行の強制をする。

b.相談者の「使用収益する権利」を被保全債権として、大家の解除権を代位行使する(債権者代位権の転用)

c.差止め

くらいなものでしょうか。c.が認められないとなるとa.かb.ですが、僕はb.は正直認められないと思います。債権者代位権の転用が認められる場面は他に方法がない場面が多い気がするので、この場面では他に方法がある以上、安易に認めるべきではないと考えるからです。

a.については、間接強制とかで認容してもいいんじゃないかとも思います。ただ僕は民事訴訟法がわからないので、なんとも言えません。なので解説では触れないことにしました。誰か教えてください。

 

ひとまず以上です。長文失礼しました。